現場のベテランの勘は、AIに置き換わるものではなく引き継がれるもの

「AIが進化すれば、いずれベテランの経験も要らなくなるのでは」

製造業の現場で、こうした不安の声を聞くことがあります。長年かけて培ってきた勘や経験が、技術によって軽んじられるのではないかという懸念は、決して的外れなものではありません。

AIが得意なこと、苦手なこと

AIは、大量のデータからパターンを見つけたり、過去の記録を素早く検索したりすることを得意としています。一方で、「なぜこの取引先には、この納期で提案するのか」といった、言葉になっていない判断基準を、AI自身が新たに生み出すことはできません。

そうした判断基準は、これまでベテランの頭の中にしかなかったものです。AIが力を発揮できるのは、その判断基準がある程度言葉や記録として残されている場合に限られます。

つまり、AIより先に必要なのは"引き継ぎ"

ここで見えてくるのは、AIが経験を置き換えるのではなく、経験が言語化されて初めて、AIもそれを活用できるという順序です。

ベテランの経験を記録として残しておくことは、AIのためというより、まず何よりも次の世代の社員のためになります。その記録が結果としてAIにとっても参照可能な情報になる、という位置づけで捉えると、抵抗感なく取り組みやすくなります。

現場の不安に、正面から向き合う

「AIに仕事を奪われるのでは」という不安を持つ現場のメンバーに対しては、「AIはあなたの経験を代替するものではなく、あなたの経験を残すための手段の一つだ」という説明が、納得を得やすい伝え方です。

実際にうまくいっている会社では、ベテラン社員自身が「自分の経験が記録として残り、後輩の役に立つ」という実感を持てるよう、記録づくりに前向きに関わってもらう工夫がされています。

まとめ

AIは、ベテランの経験に取って代わるものではありません。むしろ、その経験を組織の中に残し、次の世代に引き継ぐための一つの手段です。技術をどう使うかより先に、まず経験をどう言葉にしていくかを考えることが、遠回りに見えて確かな一歩になります。